咳は体の防御反応の一つであり、喉や気管に入ってくる病原菌や異物を外に出すためのメカニズムです。気道の粘膜が何らかの刺激を感知すると、神経を通じて脳に信号を送り、咳を引き起こす一連の反応が開始します。
咳には3つの段階があり、まず大きく息を吸い、声門が閉じ、声門が開くと同時に一気に肺内の空気が吐き出されます。そのスピードは時速200~400kmもあると言われています。気道内にもそれなりの圧力がかかるため、咳自体が気道に炎症を起こし、咳を長引かせることになります。
咳は肺の病気のほぼ全てに起こる状態であり、原因を突き止めることは一筋縄ではいきません。咳が出たきっかけや合併している症状、時間経過などを考慮して原因を考えていきます。
急激に始まり3週間程度で収まる咳は、多くの場合、急性上気道炎(いわゆる風邪)が原因になります。喉や気道に感染したウイルスを体外に出そうと、体が防御反応として咳をします。そのほかにも細菌性肺炎やマイコプラズマ感染など、感染症の多くは急激に咳がでることが特徴です。
2ヶ月たってもなかなか咳が止まらないとき、いよいよ特殊な病気を考えていく必要があります。長引く咳の原因には次のようなものがあります。
気管支が過敏に反応し、喘鳴(喉から聞こえるゼエゼエやヒューヒューという音)や息切れとともに咳が出ます。夜や朝方に出ることが多く、一度咳が出るとなかなか止まらないことが特徴です。血縁の方に同じような症状があったり、御本人が花粉症やアトピー性皮膚炎などアレルギー疾患をお持ちのことも多いです。
気管支喘息と違い喘鳴はありませんが、夜間に咳が悪化する病気です。気管支喘息の亜型と考えられており、30%の人が気管支喘息に移行すると言われています。
喉のイガイガ感を伴う乾いた咳が特徴です。気管支喘息や咳喘息は気管支を広げる吸入薬(気管支拡張薬)が効果的であるのに対し、アトピー咳嗽では気管支拡張薬の効果が弱く、抗ヒスタミン薬というアレルギーの薬が有効です。
長期間にわたる気管支の炎症により、慢性的な咳や痰が生じます。喫煙や排気ガスなどの影響が主で、肺の機能が低下し、たん絡みの咳や息切れがでることが特徴です。
咳や喀血、胸痛などが症状として現れることがあります。タバコを吸っている方や、過去にタバコを多く吸っていた方、体重減少などがある場合は肺がんが疑われます。
胃酸が食道に逆流する病気です。胃酸が喉を刺激し、喉のイガイガ感や咳が生じることがあります。
慢性副鼻腔炎(蓄膿)により鼻汁が垂れ込み、咳が続くことがあります。
飲み薬や漢方、サプリメントなどの副作用により、肺に影響が出ることがあります。息切れや咳の症状がでます。
肺の稀な病気として、間質性肺炎、気管支拡張症、肺結核などが隠れていることがあります。
咳の原因が多岐にわたることから、医師による問診に加え、様々な検査を組み合わせて診断していきます。
肺の画像検査であり、一番重要な検査です。肺炎や結核、肺がんなどは画像検査により見つけることができます。X線検査では見落としてしまうような小さな影は、CT検査をすることでより正確に肺の状況を確認することができます。鼻の症状がある場合は、副鼻腔の画像検査をすることもあります。
咳とともに痰が出る場合は、痰の性状を調べることで咳の原因がわかることがあります。肺炎や結核では、痰の中の菌を確認し診断することができます。喘息やアトピー咳嗽では、痰の中に好酸球という成分を認めることがあります。ご自身で痰が出せない時は、食塩水を霧状にして吸入し痰が出やすくする誘発喀痰検査を行うことがあります。
肺活量や1秒間でどれぐらい息を吐けるかなどを調べ、肺の病気を調べます。喘息や慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎で異常を認めます。気管支拡張薬の使用前後で、呼吸機能に変化が出るかを確認する気道可逆性試験を行うこともあります。
吐いた息の中に含まれる一酸化窒素(NO)の濃度を調べる検査です。喘息で高値を示します。
気管支喘息で使用する気管支拡張薬を、検査と治療をかねて使うこともあります。喘息やアトピー咳嗽、慢性閉塞性肺疾患などは検査や症状だけでは判断できないこともあり、治療を先行させて効果があった場合、喘息の可能性が高い、と判断されることがあります。